健康法をわかりやすく解説 Vol.06

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転移を制する者はガンを制す

癌(がん)は日本人の死因のワースト3の一角を占めるが、その大きな要因として、がん細胞の飛び火であるがん転移があり、これを抜きにしてがん治療を論じ得ない。

その理由は、いくら効率的にがん細胞を殺傷しても一部のがん細胞が生き残り、その後に多様な遺伝子変異をもってより強力ながん細胞に変身するからである。

次世代の理想的ながん予防法は、既に体内にがん細胞がたとえ僅少でも発生している可能性を視野に入れて、万全を期して、このがん細胞の凶悪化を防ぐ対応策を含むことに入念し注力すべきである。

この意味で、電解水素水は強力ながん細胞殺傷効果がない代わりにがん転移を防ぎ、新たな発がんを生じさせない安全で穏やかながん予防法として育成される資格要件を備えている。

新たな視点からのがん予防法として電解水素水は今後いっそう発展させて実用化されるべきである。


電解水素水はがん浸潤を抑制する

がん転移の主要な段階は、がん細胞がMMP(マトリックス メタロプロテアーゼ)という酵素を分泌し、これを組織と組織を区切る基底膜に働きかけて、自らが移動するための通路を形成させるべく小孔を開けて血管やリンパ管の壁をクロスして内外へ透過する浸潤というプロセスである。(図22)

図22

がん浸潤のモデル実験として、ヒト繊維肉腫細胞HT-1080が再構成された基底膜を溶解し、これによって形成された通路を移動し、さらに細胞の半分近くの0.008 mmの直径の小孔をくぐり抜けるために自らの体を細く変形させて、基底膜をクロスして透過する実験系を用いる。

図23

図24

繊維肉腫細胞HT-1080はがん浸潤モデル系に20万個を蒔くと、1-3時間で概ね1万個が基底膜とその直下の多孔フィルター膜をクロスして反対側へ透過し、浸潤プロセスがモデル実験で達成されたことになる。この浸潤したがん細胞を染色して個数を計測する。(図23の左の写真)

この時に電解水素水で調製した培養液の中では、がん浸潤が顕著に抑制される。(図23の右の写真)


がん細胞内部の活性酸素は電解水素水によって抑制される

電解水素水によるがん浸潤抑制のメカニズムとして、次の作用段階の少なくとも一部が抑制されると考えられる。

  1. 基底膜に自らが移動するための通路を造るMMP-2, MMP-7遺伝子発現の亢進
  2. 不活性な前駆体Pro-MMPからMMPへの活性化
  3. 細胞運動能・細胞変形能を担う細胞骨格・アクチンフィラメントの重合-脱重合など

これらが、元来、無処理の細胞では、細胞内部の微量の活性酸素で促進されるところを電解水素水による活性酸素の消去を介して抑制されると考えられる。(図25)

図25

電解水素水の中の溶存水素は、それ自体は単独で反応性が大きいことはなく、純水中でいわゆる活性水素や原子状水素が生成するとは現段階の検出手段では容認し難い。しかし電解水素水の中の溶存水素は、純水中でなく白金など金属触媒あるいは水素吸蔵体の存在下で活性酸素が共存すると、その消去反応に働くと考えられる。

いくつかのその傍証として次の事実が挙げられる。

  1. フェントン反応で生じるヒドロキシルラジカルが電解水素水で効率よく消去されることが電子スピン共鳴法で検証されている
  2. DPPHラジカルに対して低濃度の白金コロイドは捕捉速度が遅いが、水素水との共存によって顕著に加速される
  3. ミネラル含有の培養液での各種がん細胞や正常細胞で、細胞内部のヒドロペルオキシドや過酸化水素が電解水素水によって消去される

図26

酸化還元指示剤のCDCFH-DAは細胞内部のヒドロペルオキシドや過酸化水素といった活性酸素と反応して緑色の蛍光を発するが、電解水素水で調製した培養液の中では、ヒト繊維肉腫細胞HT-1080は蛍光が弱くなり、細胞内部の活性酸素が少ないことが示された。(図25)

水素を含まない超純水で調製した培養液の中では、このがん細胞の内部の活性酸素は30分から2時間培養しても減少することはないが、電解水素水やpH中和後の電解アルカリイオン水では、細胞内部の活性酸素は減少している。(図26)

これらの結果は電解水素水の中の溶存水素は細胞膜を透過して、細胞内部の活性酸素とマンツーマンで反応して消去すると考えられる。水素のような気体はナノサイズなどのクラスターサイズにも依存して、細胞膜や組織の内外を比較的自由に出入りすると見なされる。


電解水素水は核の内部の活性酸素も消去する

ヒト繊維肉腫細胞HT-1080では、細胞質よりも核の方が活性酸素を多く含有するという写真データが、酸化還元指示剤CDCFH-DAを用いた蛍光法で得られている。(図27)

図27

電解水素水は、このがん細胞の核に多く分布している活性酸素を効率よく消去している。(図27)

この結果より、溶存水素が細胞膜を透過した後、細胞内部で細胞質から核膜のヌクレオポーリンなどを介して核の内部に侵入する可能性が考えられる。いわば二重バリアとしての細胞膜と核膜の両方を透過する優れた移動能が溶存水素に備わっていると見なされる。


正常細胞の内部の活性酸素も消去される

がん細胞における活性酸素が電解水素水によって消去されることが検証されたが、正常細胞ではどうだろうか。

ヒト皮膚を構成する正常細胞として角化細胞は最も主要な細胞である、ヒト皮膚角化細胞HaCaT細胞をCDCFH-DA蛍光法で調べた結果、細胞の中心部に活性酸素が多量分布するという写真データが得られた。(図28の下の写真)

電解水素水では同じ角化細胞で活性酸素が消去されていた。(図28の上の写真)

活性酸素を白で表示した写真(図28の中の左)および、白黒反転させて活性酸素を黒で表示した写真(図28の中の中央)とで確認することができる。

1個の細胞の内部での活性酸素のミクロ分布をラインヒストグラム(図28の中の右3分の1)で表示すると、細胞中心部ほど多量の活性酸素が分布する山型パターンにおける急角度が、電解水素水では緩い角度になっている。

この正常細胞では、中心部の核での活性酸素が電解水素水によって消去されることが検証された。

図28


細胞集団でのがん細胞への殺傷効果

単一細胞の状態にあるがん細胞の細胞分裂が電解水素水によって阻止されることが検証されている。これはがんの芽からがん組織への成長に対する阻止に該当する。

がん細胞は単一細胞よりも細胞集団の状態の方がより殺傷し難くなる。そこで細胞集団の状態になったがん細胞に対して、より豊富な溶存水素を持続させる高品質の電解水素水をより長期間、高い頻度で投与するがん予防法が今後試行されるべきである。

ヒト繊維肉腫細胞HT-1080がある程度、細胞増殖して細胞と細胞どうしが接触している状態において電解水素水を投与した。この結果、細胞膜の破綻、脱核、細胞萎縮などの細胞変性が生じて、細胞死に至った。(図29)

がん細胞は正常細胞よりも代謝活動が大きいた為、多量の活性酸素を発生していることが知られている。その分がん細胞は活性酸素を自己解毒する抗酸化力も正常細胞より大きいとも見なされている。 

一方、がん細胞の内部の活性酸素は細胞分裂を引き起こすシグナルトランスデューサ(信号伝達因子)として働き、初動段階でのトリガー(引き金)の役割を果たすと考えられる。

したがって、細胞分裂トリガーとしての活性酸素は、細胞内部における発生量から抗酸化力を差し引いた正味量によって微妙なバランスの上で作動していると考えられる。

この収支バランスを崩す要因として電解水素水がノミネートされることになり、がん増殖の阻止に働くと見なされる。

図29

正常細胞は細胞分裂の静止期でも安定に生存する。他方、がん細胞は細胞分裂している間は活発な生存状態となっているが、細胞成長因子と増殖栄養要因が乏しくなって細胞分裂の停止状態に追い込まれると、死滅しやすいという弱点を有する例が少なからず見受けられる。

電解水素水はがん細胞への殺傷作用というよりも、増殖停止に起因する2次的な抗がん作用である可能性が考えられる。

電解水素水は同時に、正常細胞の傷害要因となる活性酸素も消去する作用を有するので、正常細胞への副作用の少ないがん細胞選択的な抗がん作用が期待される。


美肌と抗がん効果を支える細胞内外での抗酸化力

多数の種類の抗酸化剤が開発されていて、ブームとなった各種の抗酸化剤があたかも万能であるかのようにその効能が過大宣伝される傾向が時として見受けられる。

これらの抗酸化剤の開発競争の中で生き残る抗酸化剤は次の資格条件が必要であろう。

  • 無細胞での条件でなく、細胞内部での活性酸素を消去する能力…細胞のない物質レベルだけでの活性酸素を消去する能力なら、硫化水素、亜硫酸ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウムが最優秀の抗酸化剤になるであろう。これらは細胞毒性が大きくて人体には適用できないのであり、いかに低い毒性で、活性酸素を消去するかが大切である。 
  • いかに低毒性で活性酸素を消去する抗酸化剤であったとしても、守るべき遺伝子が存在する細胞内部にまで分布する能力がなければその真価を発揮し得ないことになる。すなわち、活性酸素と抗酸化剤とが一騎打ちを行なうバトルフィールド(戦場)としての細胞内部に浸透し難い抗酸化剤は資格欠落となる。

図30

活性酸素がこれだけ根深く老化・がん・生活習慣病・肌トラブルに悪影響を及ぼしているのであるから、今後も21世紀中盤に掛けて秀逸した抗酸化剤が多数開発されていくと予測される。

その決定打となる抗酸化剤は、様々な特徴を有する2〜3種類の抗酸化剤ミックスとなると見込まれるが、この一角を占める独自性のある抗酸化剤として、本シリーズで解説して来た多様な効能を示し、最も高頻度に摂取する飲み水としての特性の観点から、電解水素水は有資格者であると考えられる。(図30)